Hakurokin’s 縁側生活

アルコール依存症/うつ病/リハビリブログ

2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧

言語化するジュネ/流動するアルトー43

せっせと略奪に励むエリック。なるほど戦場での略奪行為は「富の蓄積」である。戦後のことなど誰にもわからない。だからエリックは戦後の「栄光」を完全に信じ込んでいるわけではない。戦場で確かなことは、戦時中にかぎり、「略奪行為」は「富の蓄積」と違…

言語化するジュネ/流動するアルトー42

戦闘の中で残骸化していく建物と街路。あちこちに「裂け目」が出現している。戦争は大規模な破壊として映って見える。だがその行為の一つ一つはどこまでも分割可能な微々たる崩壊過程の堆積でもある。ジュネが改めて「心打たれる」のは大破壊の中で起こって…

言語化するジュネ/流動するアルトー41

ジュネ的感性における官能の絶頂。多くの男性の場合、それは射精そのものではなく射精直前の瞬間の「陶酔的な渦巻の真只中」であって、その意味にかぎっていえばジュネは「変態」でも何でもない。しかしジュネが多くの場合と異なるのは、ジュネの想像が性行…

言語化するジュネ/流動するアルトー40

ジュリエットの娘の葬儀を眺めながらポーロはおもう。 「赤ん坊が生れおちるやいなや死んでしまったのは残念なことだ。ゆくゆくは、道ばたで物乞いするために二人で歌う術(すべ)を女中は娘に教えてやれたのに、彼女自身母親から教えられたように。狭い部屋…

言語化するジュネ/流動するアルトー39

何をやっても無駄だという絶望的感覚とその持続感。ジュネのいうように「腑抜け」てしまったような感じ。何もしていないのに疲労の蓄積が止まらないようにおもえてくる。 「もっとも悲嘆は私たちを腑抜けにし、精神を攪乱する場合もある。あまりにも大きすぎ…

言語化するジュネ/流動するアルトー38

場面は女中ジュリエットの葬列の途中へよじれるようにしなやかに引き継がれる。 「病院から教会まで、彼女は顔の前にヴェールを垂らして、その黒い布ごしに、世界をすかし見ていたので、世界中が彼女の悲しみを悼んで打ち沈んでいるように思われ、感動するの…

言語化するジュネ/流動するアルトー37

みずから欲したとはいえ。殺人者になってしまった恐怖。殺害された少年が亡霊と化して不意を衝いて追いかけてくるのではという恐怖。殺人者として世間へ帰還することの恐怖。むしろエリックはこれら恐怖によって頭部を支えられているような状態である。殺人…

言語化するジュネ/流動するアルトー36

儀式を終えたエリックは「坂道をくだっていく」。なぜ「坂道をくだ」るのか。どうして「坂道をのぼっていく」ではいけないのか。それもまた儀式という劇場がもたらす大いなる錯覚の一つである。エリックはまだ、やや興奮ぎみだ。 「わきに垂らした左手に黒い…

言語化するジュネ/流動するアルトー35

そうで「なければならない」儀式的場面はすでに乗り越えられている。その意味で続くこのシーンで、エリックは腑抜けている。 「驚いた犬はその足や頭を嗅(か)いでいた。その黒い子犬が、貴公子にふさわしい、利発な葬儀を始めないのが、黒犬たちが心得てい…

言語化するジュネ/流動するアルトー34

エリックの儀式は終わったわけではない。しかも「きれいな少年」は始めから「きれい」だったわけではない。少年目掛けてエリックは「三発」の「弾丸」を発射し命中させる。「三発」の弾丸が少年の身体に確実に「ぶち込」まれるやいなや発生する弾丸「三発分…

言語化するジュネ/流動するアルトー33

エリックから発して少年へ接続された目に見えぬ「殺人意志」という強度の絆。強度ゆえ、にょろにょろと動きまわる。伸縮自在だ。 「黒服をまとった、武器をにぎった腕は、私から途方もなく伸び出して、闇の中へ手を運び、少年が君臨する塚の背後へ廻り、それ…

言語化するジュネ/流動するアルトー32

武器が、ではなく、武器としてフェチ化された様々な意匠が、エリックの殺人意志を支援する。それでもなおエリックには人間的な情感が部分的に残されている。 「右手に、私は自分の武器を感じた。私の半ば開いた口から、二十メートル離れた少年の半ば開いた口…

言語化するジュネ/流動するアルトー31

息をつめて強度の緊張感に倒れそうになりながら試練に耐えるエリック。ともすれば殺人への意志の重々しさに打ちひしがれそうになる身体をかろうじて支えている。このままでは押すことも引くこともできない。 「陰気に凍てついた、それでいて目鼻立ちがすべて…

言語化するジュネ/流動するアルトー30

ジュネではなく、エリックの行動が描かれる。スローモーション的手法が用いられている。エリックは自分の行動のすべてをこのシーンのみで儀式として成立させなくてはならない。「十四、五歳の少年」が登場する。 「或る夜、最近占領されたばかりのフランスの…

言語化するジュネ/流動するアルトー29

エリックは自分を儀式化する。なぜだろう。エリックの履歴にはすでに傷がある。犯罪者の犯罪歴を消すことは不可能な時代だった。手書きではある。しかし当然データバンク化されている。それは生涯まとわりついて離れない「恐ろしい欠陥」になる。それなら、…

言語化するジュネ/流動するアルトー28

ピエロの生成変化について前回述べた。ジュネは「原因と結果の取り違え」を犯していると。だから「自負心」という言葉はいったん括弧入れされねばならない。しかしその上でなら、次に続く文章はそのまま読むとしても問題ないように思われる。 「ピエロの態度…

言語化するジュネ/流動するアルトー27

エリックと死刑執行人との間に発生する愛の行為。男性同士の同性愛ではあるのだが、それをエリックが身体の領域で確実に手に入れたとするにはまだ躊躇がある。なるほど性行為は行われる。精神的にもどちらが背後に廻ってもよいような次元にまで距離は詰めら…

言語化するジュネ/流動するアルトー26

ジャンになるジュネ。仮面の付け換えではない。ジュネの身体をジャンに与えるのである。これ以降、ジュネの言動はジャンの言動だ。だからジュネは一つの不安を覚える。ジャンが身につけていた態度「廉直を、高貴を、正義を、私は愛しはじめたのだろうか?」…

言語化するジュネ/流動するアルトー25

次に幾つかある中で注目したいのは「弔辞」であり「式場」である。司祭などというものはいてもいなくても構わない。実際、戦時中の戦場に司祭などいなかった。式場もなかった。ところが「弔辞」が発せられるやいなやその場はやおら「式場」と化す。 「弔いの…

言語化するジュネ/流動するアルトー24

死者は女中ジュリエットから生まれた。まだ幼少時だった。父親は誰なのか。判明しない。少なくとも女中の身分では、父は誰にでも交換可能である、という事態が常態化していたことがわかればいいのである。それを問題とするのならむしろ現代社会では女性が精…

言語化するジュネ/流動するアルトー23

リトンは拒絶して拒絶された人間である。孤独への意志が思考する。フランス人のリトンはフランス語で考えながらフランス人の普段着を「遮断」する。 「心の中で彼は『兄弟』という言葉を使った。それはやくざ仲間の感傷的な言語、アルジェリア人たちによって…

言語化するジュネ/流動するアルトー22

ジュネはエリックについて語っているのか。それともリトンについて語っているのか。というより、ジュネはエリックを通してリトンを見、リトンを通してエリックを見る。次の描写でエリックは「石柱」になる。この石柱は「地下鉄を支え」るに十分な強度を有し…

言語化するジュネ/流動するアルトー21

成人に達していないフランス人少女たちのたわいない「笑い声」。ナチスドイツに忠誠を誓ったエリックにはそれが抜けない棘のように突き刺さる。突き刺さると感じるのはなぜか。それはエリックにフランスへの愛がほんのわずかでも残っていたことを思い起こさ…

言語化するジュネ/流動するアルトー20

太陽の下では何もかもがあからさまに見える、とは限らない。太陽が与えるのは無数の諸力へ散乱していく「力への意志」であり、太陽じたいがそもそも常に「力への意志」でなくてはならない。太陽という名の「力への意志」の恩恵のもとであからさまに晒されて…

言語化するジュネ/流動するアルトー19

ジュネは裏切り行為によってもたらされる恥辱に身悶えする。とともに身悶えを味わう。その両義的な状態のうちにも「鮮明な輪郭をそなえた」ものが残されると感じる。それをジュネは「自負」「卑下」「認識」と言いうると述べる。 「その苦しみのさなかに、恥…

言語化するジュネ/流動するアルトー18

ジャンの死体は日に日に腐敗していく。腐敗しない死体はない。生前の人間が自然との不断の新陳代謝を反復することで生きながらえているように、もはや死体となり進行する腐敗に身を任せることはより一層近く自然の循環に戻ることであるだろう。世間一般の用…

言語化するジュネ/流動するアルトー17

ジュネはの自分の愛の方向性について次のように述べる。「対独協力義勇兵」に対する隠しきれない愛について。「彼らはもっとさらに排斥されていた。嫌われるだけでなく、けがらわしい人間に見られていた。こういう連中が私は好きだ」と。 「フランスとの、さ…

言語化するジュネ/流動するアルトー16

ジュネは現実主義的である。もっと明瞭で確実性のある事態へ接近したがる。殺害されたジャンの思い出を通して無残この上ない銃撃戦をまざまざと想起しないでは気が済まない。 「私の感情はそれについて私が抱く自覚をとおしてのみ現実性をもつ以上、はっきり…

言語化するジュネ/流動するアルトー15

喪の作業を続けるジュネ。ジュネ化したジャンは種々の形態へ次々と変化する。 「ジャンはしばしの間いかなる形のもとでも存在することができただろう、だから私は、しばしの間、杖にすがった女乞食に、また、芥屑や、卵の殻や、くさった花や、灰や、骨や、し…

言語化するジュネ/流動するアルトー14

幼少期からキリスト教の教義を叩き込まれてきたジュネは、世間一般から排除されたあとも、引き続きキリスト教の教義を活用せざるを得ない。ジャンの「痛み」を思い返すたびによみがえり打ち寄せてくる「絶望」や「苦痛」に対してどのような態度を取るべきか…