2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧
ピエロは刑務所内の暴動首謀者を気まぐれに指摘した。管理者側の隊長らはピエロを管理者側に抱き込むことで差し当たり首謀者たちを処刑して事態を収めることができる。ピエロは堂々と振る舞った。その指摘する仕ぐさは「天の声」として作用した。他の囚人た…
リトンの背後に密着することに成功したエリック。しかし不安である。リトンは本当にエリックを受け入れてくれているのかどうか。ただ単にエリックが年長のドイツ軍人でありリトンにすれば逆らいようがないため仕方なく受け入れる仕ぐさで応じているに過ぎな…
地下鉄の車内はとても混雑している。押し合いへし合いしなくてはならないほど。そしてエリックはリトンの「真後ろにいた」。この種の出会いは偶然でなくてはならない。十七歳のリトンはその若年さゆえに人格の賭かっている或る確実性を得るか得ないかの天秤…
ピエロが著しくジュネ化するシーン。それは「七つ目の独房で」の仕ぐさを通して描かれる。ジュネは「七つ目の独房で」、とわざわざピエロにおもむろな一呼吸を与えた上でこう書く。「犠牲者を指し示すのに、彼はあごで合図した」。 「七つ目の独房では、犠牲…
ピエロは加速的に両義化していく。裏切り者はいつも両義的だ。そして両義的なものは二つの局面を同時発生させるが、そのうち一つの局面を二つに分裂させる。もう一方の局面もまた二つに分裂させる。以下無限に分裂していく。したがってピエロの系列というも…
ピエロはおもう。少なくとも自分は死んでいない。生き残っていると。刑務所長らの脅迫によってピエロは暴動首謀者に関する密告者の役割をみずから進んで《欲望した》わけだが、それが功を奏していると実感する。ピエロにとってこの実感はただちに快感である…
監獄内で起こった暴動とその鎮圧。それを利用して自分固有の特別な利得を引き出す機会へと事態をまっさきに転倒させたのはピエロ、ジュネ、刑務所の隊長の三人である。そしてそれはまずまず成功した。隊長の訊問を受けた中でピエロだけは「刑務所長と、隊長…
しばしば唐突に差し挟まれるジュネによる論考。やっていることは反省なのだが、日本でいう「反省」とは全然意味が異なる。日本で「反省」といえば「謝罪」や「土下座」といった誰にでも可能な単なる演技でも間に合う形ばかりのものを指していわれることが多…
「裏切り者」としてのジュネは「フランスの恥部」あるいは「恥部としてのフランス」について書くとき、その筆の運びは冴え渡る。みずから鏡の前に立って目を開くことを恐れない。 「その言語を通じて、その心臓(ハート)に私を結びつけ、それが痛むときは私…
とぼけた感じで考えるエリック。しかし考えているのはジュネらしい。やや驚いて見せる。 「パリでは、女子供や、老婆に到るまでみんながみんな、偽装した兵士であるというのはほんとうだろうか?」(ジュネ「葬儀・P.274」河出文庫) かといって、パリの…
判事の行動は奇妙に見える。矛盾しているかのように見える。だが矛盾は解消されている。少なくともジュネにとっては。そしてこの場面でジュネにとって言えることは、数カ所でナチスドイツの支配下にあり、まだ完全にフランス国家として復帰したわけではない…
判事は言語的なものが何をなすかについて、その危険性について鋭く頭を回転させた後、「漠然とした混沌状態に」おちいる。考えられる限りの議論を想定し終えたからか、それとも考えることに疲れ果ててしまいそこで議論に終止符を打って決断するに至ったから…
判事は原則に忠実であろうとする。「線」といってもそれはいったい何を意味するのか。何かを意味する。人間の目に触れるやいなや意味してしまう。言語は多様なものを覆い隠す。一方、まったく別なものを表現したりもする。言語は便利な必要物には違いない。…
フランスが密告天国と化しているとき、ジュネは或る判事を登場させる。判事はリトンやポーロが中心となって実行された強盗事件に関する訴訟記録に目をとめる。 「訴訟記録のあいだから、判事は片手で、クラマーユ書類を探し、それを見つけ出した。ーーー押し…
密告天国と化したフランスを目の当たりにしたジュネ。数十年にわたるこれまでの自分の過酷な研鑽とその価値がたちまち消滅していく光景に無力感をおぼえ底なしの虚無感にはまり込むほかない。フランスで生まれ育ちフランス語でものを考えるフランス人ジュネ…
ドイツ軍とフランス軍とではいったいどちらが危険なのか、という問いは無効である。ジュネは「密告沙汰」について触れておきたいとしてわざわざ頁を割く。 「ドイツ野郎から自分を解き放ったおりの、向こう見ずな美しい振舞いを発揮したパリっ児たちに私は好…
ジュネはジャンから始めて告げられた言葉を忘れはしない。その言葉をエリックとリトンとの情事のシーンをもっと華々しく飾り立てるために利用する。 「はじめて、私が幸福に酔い痴れ彼の背中で身もだえしたおり、ジャン・Dーーーが私に言ったすばらしい文句…
陽気な笑いというものは、ただそれだけでは有益でもなければ無益でもない。最愛のジャンを失ったばかりの失意のジュネにとってパリの街路のあちこちから聞こえてくる陽気な笑いは、聞こえてくればくるほどジュネを世間から孤立させる。笑いに同意することは…
葬儀の中で「花」が持っている力についてジュネは述べる。現代の葬式では特に花でなくてもよく、故人が好んで愛用していた物品あるいは嗜好品を棺の中に共に納める傾向が一般化してきた。それは具体的で目ではっきり認識でき、ほとんど故人と同様のものとし…
リトンはジュネの手の中で儀式に閉じ込められたまま自分の未来を知らない。だがなぜこうなったかについては自覚がある。 「対独義勇兵たちがーーーとりわけわれらのリトンがーーーフランス人に向かって発砲せずにおれなかったのは、まったく必然の成り行きで…
詩人になろうとおもわなくても人間はしばしば詩人である。人間誰しも「悪に心を奪われ」ないとは限らない、という意味で。 「詩人である以上、私の芸術は悪を開発することから成り立っており、これらの事実、最も悲壮な時代の特徴を現わしている矛盾葛藤に私…
エリックはフランス語を消化する。さてしかし、それはどのようにしてか。ここでもまたジュネ流の記述方法で述べられる。だがそれはヨーロッパではそもそも歴史的な考え方であって、何もジュネだけが特別だというわけではない。「飲み込む」あるいは「理解す…
いったん方法さえ覚えてしまえば、どのような事態であっても、悲劇的なものにするのも滑稽なものにするのも簡単なことだ。とりわけ詩人にとっては。 「滑稽さの中から、その事柄、或いはその人物の悲壮さと美しさが浮かび上がるためには、ほんのすこしずらせ…
最初に「指」と「毛」との出会いがある。出会いはその衝撃性にもかかわらず、極めて隠密に果たされる。リトンの指先とエリックの陰毛との出会いは劇的だ。悲劇的でもある。しかしこの悲劇はリトンが望んだことだ。リトンは祖国フランスを裏切ってドイツの軍…
ジュネ的フェチの系列は留まるところを知らない。ジュネにとって黒づくめの「革具の音」はプルーストにとっての「マドレーヌの香り」と同様に回想と再創造のための起動装置として働く。 「革具の音からの連想だろうが、特殊な娼家でよく黒いカーテンのかげに…
ヒットラーを演じるヒットラーはふと我に帰る。といっても、帰る我があるわけではない。仮面の側がすでに素顔化してしまっており、仮面を脱いだとしてもその内側から出現するのはまたしてもヒットラーを演じるヒットラーという仮面でしかない。かつてのアド…
遊びから発生する盗人がいるように、必要性から発生する盗人がいる。必要性から発生する盗人の行為についてジュネは「遊びの赴かない冒険」だという。 「数奇な魅力の故に盗人は自分の職業を耐えている。だがそれが必要にもとづくものでなければその職業も魅…
ポーロはジェラールによって見出される。工事現場に集中している強度がジェラールを引き寄せたともいえる。たとえば四季のある地域、特に日本の夏の工事現場ではあたかも目に見えるかのような様態を呈する集中的な諸力の運動。 「ジェラールは、ベルリンで、…
ヒットラーを演じるヒットラーは一人の人間である。一旦政権を掌握すれば連日連夜ヒットラー《総統》という仮面を演じ続けなければならなくなる。そして一度定着した仮面は容易に剥がし難いものとなって素顔化する。権力者であればあるほど仮面による浸透度…
ジュネはいろいろなものについて語る。スローモーションで語る。だがしばしば「すべての物が」凝固し固定しステレオタイプ化して停止することがある。「見つめる」という動作はステレオタイプ化することでもある。だからジュネにとって、なぜか或る特定の日…