2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧
長い廊下にいるKの目には整然と二列に並んだそれぞれの部屋のドアがしきりに開閉している様子が見える。書類がどの部屋のどの役人に宛てられたものか。自分に宛てられたものなら当面の間は安心できる。しかしそうでない場合、落胆とともに次の書類の到来とそ…
Kが気づくともう役人たちは仕事を始めていた。朝のようだ。細かな職務をずいぶんせっかちそうにこなしている様子が見て取れる。 「廊下そのものには、まだだれの姿も見えなかったが、各部屋のドアは、すでに動きはじめていて、何度もすこしあけられたかとお…
Kはフリーダとの対話を通して二人の関係はすでに破綻したということを確認したに過ぎない。廊下を見渡すと請願者でごった返していた部屋はもう静まりかえっているようだ。ともかく廊下は遠くまで長く続いているらしい。縉紳館はそんなにも巨大な建築物だった…
Kとフリーダとが言い争っているところにイェレミーアスが現れる。つい昨日までの助手の面影はまるで無くもはや別人の様相だ。 「そのとき、脇(わき)廊下のほうでわめき声がした。イェレミーアスだった。彼は、脇廊下へ降りていく階段のいちばん下に立って…
Kはフリーダと結婚の約束をしたが二人はまだ正式に結婚したわけではない。そこでフリーダは自分のことを「あなたの未来の妻」と呼んでいる箇所がある。Kがバルナバスの家でオルガと会っているあいだ、フリーダは助手の一人イェレミーアスに体を奪われた。イ…
縉紳館(しんしんかん)へ到着したK。城からエルランガーが来ていると聞いていたが本当に来ている。エルランガーはバルナバスが言っていたクラムの秘書の一人。早くも縉紳館の周囲を取り巻くように請願者の行列ができている。バルナバスが触れ廻ったわけでは…
イェレミーアスはKの助手の一人である。Kがバルナバスの家で長々と話し込んでいる間にフリーダはイェレミーアスを誘惑し性的快楽に耽らせた。フリーダはオルガに対する嫉妬ゆえにイェレミーアスと寝ることでKの気持ちをオルガから自分の側へあっという間に転…
バルナバスがKに届けた手紙についてオルガの説明が入る。Kに対して手紙の重要性をことさら強調することはKにとって手紙に関する過大評価をもたらす。すると期待値が上昇するため結果的に手紙の価値は低いものだったとKを落胆させバルナバスに対する疑惑を深…
オルガは<娼婦・女中・姉妹>の系列に属している。妹・アマーリアの拒否に代わって姉・オルガが城の役人たちにアマーリアの身体と等価性を持つ性的関係を提供できる理由はオルガ自身がこの系列に属している限りで始めて両者の<置き換え>が可能になるから…
ソルティーニの手紙に対するアマーリアの拒否によって発生したバルナバス一家絶滅の危機。一家の父がやっていた靴職人の仕事との関わりを切断してしまった村民たち。しかしその時はまだ一家と城との良好な繋がりが回復されることになれば以前と同じ境遇に戻…
アマーリアの拒否によって一家が陥った窮状。靴職人の父の下請け職人・ブルンスウィックが取引を辞退した。父の顧客たちはこぞって一家の倉庫に押しかけ修繕のためにあずけていた長靴や靴の製作のためにあずけておいた革を探し出して未払い分の勘定をすっか…
フリーダはクラムの愛人である。クラムの要求に応じていつもで体を与える<娼婦>である。その点でフリーダは村人から笑われる。しかしこの笑いはどこに源泉を持つのか。フリーダに対する根深い<嫉妬>がそれに当たる。フリーダは娼婦であるにもかかわらず…
オルガの説明にこんな言葉が差し挟まれている。 「『お役人たちは、たいてい代理しあっています。だから、ひとりひとりの役人の管轄事項がよくつかめないんです』」(カフカ「城・P.313」新潮文庫 一九七一年) 城の役人たちは一つの職務を<代理>しあう…
オルガの説明を延々と長引かせている原因は城の機構が複雑過ぎるからではない。オルガの説明は城の機構に関する説明の部分にはなっていても説明を延々と長引かせる原因にはなり得ない。にもかかわらずオルガの話をうんざりするほど長大なものへと長引かせて…
バルナバスの姉・オルガはバルナバスが出入りを許されている城の官房の様子について語る。一つの部屋ともう一つの部屋とを仕切る「柵(さく)」がある。一つの部屋の中にも柵があるという。柵は無数にあるらしい。諸手続について越えて行かねばならない柵は…
<娼婦・女中・姉妹>の系列に属する女性の中でKにとってフリーダと双璧をなすもう一人の女性・オルガ。<娼婦・女中・姉妹>はどんな女性であってもよいわけではなく特に「若い」女性でなくてはならない。オルガはバルナバスの姉でありバルナバスは城と村民…
オイディプス三角形型家父長制に基づく家庭を拒否し「ひきこもり・自閉症」を選択した「変身」のグレーゴル・ザムザ。「城」のKもまたオイディプス三角形型家父長制に基づいて整備された官僚制が支配する村に出現したまるで別な生活様式を主張する<他者>だ…
二人の助手を捕まえて大声を張り上げる男性教師。 「『薪小屋(まきごや)に押し入るようなことをしたのはだれだ!犯人は、どこにいるんだ!ひねりつぶしてくれるぞ!』」(カフカ「城・P.220」新潮文庫 一九七一年) 助手たちを捕まえて助手たちそれぞれ…
女性教師の怒りが少しおさまったところでKの側も猫に引っかかれた手の甲を生徒たちに見せてみる。しかし「引っかいた/引っかかれた」関係が直接的に子供たちの関心を引くわけではない。Kは与えられた仕事へさっさと戻ることにする。 「『さあ、仕事にかかり…
女性教師はKに問いただす。特に思い出したからというわけではなく、あらかじめ尋ねておかねばならない項目の一つであるかのように。女性教師が学校で飼っている「わたしの牝猫(めすねこ)」についてである。猫は前足を怪我している。前日にはなかったものだ…
Kはフリーダと二人の助手たちとともに村の学校で暮らすことになった。夜はあまりに寒すぎたので助手たちは薪を精一杯焚いて部屋を暖かくした。助手たちは薪をくべることこそ自分たちの使命だと言わんばかりにとことん薪を焚いていく。一度始めると止める様子…
いつどこで測量師として仕事を始めればよいのか。やきもきしながら返事を待っていたK。そこへバルナバスがクラムからの返事をもらってきたといって手紙を差し出した。その文面。 「『橋屋の測量師どの!あなたがこれまでにおこなった測量の仕事を、わたしは…
Kはフリーダとの結婚の保証を得るため城の官僚機構に属する秘書のモームスによる「調書」に応じる。フリーダにとって村の<父母>の系列に属する宿屋のお内儀の進言による。ところがモームスの「調書」に応じたからといってすぐさまクラムと接触できるという…
そもそもKは測量師として城の村へ招聘された。そしてKはやってきた。ところがKはなぜかフリーダと結婚する保証を手に入れることに奔走しなければならない立場に陥っている。測量師としての仕事は何一つしていないばかりか、まだその内容を聞かされてはいない…
Kに対する宿屋のお内儀(かみ)の言葉から。差し当たり次の三点について注目したい。(1)「結婚の同意」。(2)「他国者」。(3)「娘がどうしてあなたにからだを許してしまったか」。 「『測量師さんがわたしにおたずねになった。だから、わたしは、お…
カフカ「城」に出てくる「フリーダ」は<娼婦・女中・姉妹>の系列に属する。スターリン主義ソ連にもナチス・ドイツにもアメリカ型資本主義にもできないことをフリーダはやって見せる。ただしそれができるのはフリーダがKを相手にしている場合に限ってである…
カフカの<諸断片>で突然出現する恐ろしく古いアニミズムのような世界。例えば「審判」の次の箇所。Kは作品冒頭、身に覚えのない罪で逮捕されたため、逮捕しに来た二人を訴えていた。しばらくしてKが務める銀行事務所の「廊下」を歩いていたら、「廊下」に…
赤松啓介に言わせるとこうなる。 「敗戦直後の長田神社の鬼追い行事をみて、私は自ら日本人であることが悲しくなるほどあきれはてた。太刀を持つべき鬼が、なんと御幣をもたされて踊っているではないか。正面の特別席で占領軍将兵や外国人が居並んで見物して…
徳川幕藩体制のもとで民衆の女性に与えられていた性の自由。その過酷な内容。さらにそれぞれの村落共同体に設けられた<掟>というものがありそれぞれ異なる。赤松啓介はその特徴を村内完結的な「封鎖型」でありなおかつ「若衆連中の独占的支配・若衆たちの…
或る時、山崎朋子はこう述べた。 「昭和二十年、第二次世界大戦における敗戦によって日本帝国主義が崩壊し、女性にも政治的・社会的な諸権利が保障されるようになってはじめて、<女性史>というものが成立するようになるのだが、しかしわたしに言わせれば、…