2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧
盗賊らの住処で。二つの盗賊が鉢合わせになる。後からやって来た盗賊は「略奪物(ぶんどりひん)」を得た代わりに「仲間三人」を失ったという。「三人の死んだ仲間」=「略奪物(ぶんどりひん)」。 「三人の死んだ仲間を悼みながらも、ほらそこに置いている…
ルキウスは驢馬になる。一方で「パンフィレエ」=「鳥」があり、他方で「ルキウス」=「驢馬」がある。 「いかにもこれは鳥じゃあなしに驢馬の姿」(アープレーイユス「黄金の驢馬・巻の3・P.122」岩波文庫) ルキウスは方法に誤りがあったのではとフォ…
等価性の観念は古代ギリシア=ローマの至るところで出現していた。「死体を安置している間に生じた損傷部分」=「見張人の顔から同じだけそっくり切りとってつくろうこと」。 「もし朝になってその死屍(しかばね)が無事そっくりとつつがなく渡しかえされな…
しばらくのあいだ、等価なもの(等価な行為)として見なされてきたものを見つけては、ランダムに上げていこうと思う。さて始めに次の会話から。「男性の身体の八つ裂き」=「男性の男根の切断」。 「この男をバッコスの贄(にえ)みたいに、ずたずたに引き裂…
ドラゴミラの考える苦しみの与え方を見るとそこに時間観念の重要性を垣間見ることができる。もっと大規模で華々しい刑罰が行われていた古代にはなかった感覚である。中世いっぱいを通して主にキリスト教世界の中で醸成された人間独特の苦しみに対する意識で…
ドラゴミラが異端信仰へ身を投じてから口にする言葉は「苦行者」の心中を語るものが大半を占める。幼なじみの男性ツェジムに語ったように、年下の女性ヘンリカに向けてもこう述べる。 「あなたは人生というものを知らず、世界はまだ春の光や香りのようなもの…
十九世紀前半のヨーロッパで多くの知識人が多少なりとも精神的不調を訴え、あるいは錯乱のうちに自殺するといったことがなぜ起きたか。ネルヴァル作品をその代表的なものとして取り上げ述べてきた。さてそこで、いったんヨーロッパの混乱から少し離れてスラ…
大時計の響きは百年戦争の開始の音に変容する。ネルヴァルは五百年前の戦士の一人になる。 「幾時だったか、サン・トュウスタアシュの大時計が鳴るのを聞いて、私はブウルギニョン党とアルマニャック党の争闘を思い始めて、自分の周囲に当時の戦士達の幻が立…
外出中、ヨハネ黙示録に示されているような世界崩壊の様相に襲われたネルヴァルは疲れ果てて帰宅しベッドに身を投じる。しばらくして目が覚めると辺りは日の光で満ちている。夜が明けたのだろうか。横たわったままでいると何か合唱のような声が聴こえてきた…
絶望すればするほど赦免への祈念は加速的に高まる。債権債務関係の意識はもはや泥沼化していくばかりだ。しかし思想信仰という次元で債権債務関係は成立するだろうか。過ぎたことは過ぎてしまったことだ。ネルヴァルは意識的に啓蒙思想を選択して生きてきた…
夢で見た数々の幻影。死者の系列。大都市を山上から眺めつつ体感した太古の先住民族らの生活。さらに、オーレリアをはじめ、見覚えのある身近な死者たちの幻の系列。そのうちの何人かとは話もし声も聞いた。神々も登場した。といっても、それら神々はどれも…
幻影が現われるときの諸条件についてはこれまでの読みの中でだいたいつかめたと思う。そして幻影は或る種の系列をなして出現する点は常に同じであり規則性を持ったいたことも確認できた。次にまとめておきたいのは、夢と幻想の後の自己反省の時間について。…
オーレリアの死によって呼び覚まされた「濫費した生活」。ネルヴァルは大学医学部に入りはしたものの文学を志して結果的に学業を放棄している。ところが十八歳のとき発表したゲーテ「ファウスト」(第一部)のフランス語翻訳版がかなりの好評を得た。フラン…
以前、ライン河の畔りの巖石が散在するところへ運ばれていったような感覚に陥ったとき、遠くに一軒の家を見つけた。叔父の家だとわかったのはその中に入ってからだ。今度もまた「一軒の家」が見えている。「森の真中の、岩の散在する険しい坂」の中である。…
オーレリアの新郎のために用意されていた「王座」を見たネルヴァルにとって、友人が語る話は次のように聞こえるほかない。「神」はもう一人のネルヴァルと同一化していると。だからオーレリアの夫になるのはもう一人の自分自身、ギリシア神話を下敷きにモリ…
しばらく会っていなかった友人を見舞いに行く。ネルヴァルは統合失調を患っているのだがその友人もまた統合失調者である。白亜の慈善病院の一室に入って面会する。 「友の窶れた顔容、髯と毛髪の黒い色で一際目立つ、黄ばんだ象牙に似た顔色、熱の名残りでき…
ネルヴァルは「女の叫び声」を聞く。「オーレリアの声であり響」に違いないと確信する。 「周囲では皆が私の無力を笑っているようだった。ーーーその時私は、名状し難い誇りに意気軒昂として王座のところまで退き、そして魔力を持つものと思えた呪文を唱えよ…
もう建設を終えたのかカジノは出来上がっている。ネルヴァルは中へ入っていく。大勢の人々で賑わっている様子だ。その中にネルヴァルは幾人かの知人がいるのを認める。生きている知人もいればすでに死んだはずの知人もいる。彼らは特にネルヴァルに関心を示…
かつてと同じ山なのかわからないが、再び山の上までよじ登り、周囲を眺めながらネルヴァルは考えている。一方は海辺でただひたすら波がいつものように寄せては返している。他方、渺茫とした町が広がっている。しばらくすると街なかには明かりが灯り始めた。…
人間の二重性あるいは多重性。その自覚は十七世紀半ばから十八世紀末にかけて大量に報告されるようになってきた。 「人間は二重なのだ、と私は心に思った。ーーー『余は我が裡に二人の人間を感ず』と或る教父が書いている。ーーー二個の霊魂が寄り合って一個…
ネルヴァルは、「常に繰り返される」(=永遠回帰する)「血腥い場面」、と述べる。ヨーロッパだけでなくアジアやアフリカでもそうだと。とはいえ悲壮感に酔っているわけでもなければロマン主義的悪趣味に陥っているわけでもない。整然と記述している。 「私…
数々の伝説から幾つもの神話を創造するネルヴァル。「月の山々」とあるのはプトレマイオスがディオゲネスから聞いた話を素材として語りヨーロッパで広く伝説化した「月の山脈」のこととされている。 「かかる異常な深秘が行われたのは、月の山々と古きエチオ…
ネルヴァルは夢見の中で予想していなかった或る異変に出くわす。 「私はとある毀れた隔壁にぶつかった。その下に一つの女の胸像が横たわっていた。それを起こした時、私はこれが《彼女の胸像》だと確く信じたーーー。私は懐しい顔立ちを認めた、そして身のま…
再び夢を見ているネルヴァル。三人の女が登場する。いずれも匿名である。特に名はない。もっとも、この場合は匿名であってよく、むしろ匿名でしか登場することはできない。一人一人が幾人かの女性の特徴の系列から生成してきた幻想に過ぎないからである。そ…
大都会を見下ろす山の上から住宅地を眺めるネルヴァル。山の上には或る種の楽園が広がっている。案内人に導かれて山上へ登ったのだが、そこで見た光景について説明するのは案内人である。案内人の役割はネルヴァルが親しみ憧れたダンテ「神曲」におけるベア…
ネルヴァルは都会を見下ろす山の上から住宅地を眺めて思う。 「私は案内人に随って、その時居た地点から屋根屋根が集まってこの異様な光景を呈しているその高い住宅地の一つに下りて行った。私の足は様々の時代の建物の累層の中に沈んで行くように思えた。こ…