2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧
ルキウスは驢馬の姿のまま或る「地位財産ともにすぐれて有名な一人の貴婦人」の寵愛を受ける。婦人はルキウスの飼育係にこっそり「多額の謝礼」を与え、驢馬と一夜を共にする権利を買った。価格は表示されていないが、「驢馬と一夜を共にする権利」=「多額…
後妻裁判のエピソードが披露されているあいだ、驢馬のルキウスの飼主は変っている。ルキウスは場所を移動するしばらくの間にそのエピソードを披露して時間を稼いでいる。或る時間から別の時間のあいだに後妻裁判のエピソードが差し挟み込まれ、作品に厚みを…
愛欲の焔を消滅させるため義理の長男を殺害しようとしたところ、誤って実の子を死なせてしまった後妻の裁判。法廷に出廷した医師が証言する。或る日、ある家の奴隷がやってきて劇薬を調合して売ってほしいと頼まれたと。 「つい先日私のところにやってきて、…
目を疑うような残忍この上ない惨劇を通過しつつどんどん飼主を置き換えていく驢馬のルキウス。飼主が驢馬を置き換えているのかそれとも驢馬が飼主を置き換えているのかもはやわからなくなってくる。また古代ギリシアではしばしば見られるように、近現代から…
なお熊楠が生きていた時代には発見されていなかった資料が戦後、大量に発掘され、新しい調査技術も発明され、塗り替えられてきた歴史がある。次の文章の「松陰嚢(まつふぐり)」は松の実のことで一目瞭然、男性器の睾丸の隠喩であり、異性愛者だけでなく特…
ルキウスは思う。「人間のルキウス」=「驢馬のルキウス」という等価性もそう悪くないものだと。 「鳥にするのをしくじり、驢馬にしてしまったあの迂闊(うかつ)なフォーティスをとても腹だたしく思っていたものの、一方ではこの痛ましい不格好(ぶかっこう…
とある家の妻が情夫を家に入れて遊んでいるときに夫が仕事から帰ってきた。妻は情夫を貯蔵甕の中へ隠す。夫は知らぬままに言う。置いておいても使いようのない貯蔵甕を六デーナーリウスで売ることに成功したと。ところが妻は七デーナーリウスでもう別の商人…
ルキウスが荷運び役を務めるピレーブス一団はディオニュソス=バッコス祭を挙行して見せては周辺の村々で金品を儲けながら移動を繰り返していた。彼らは全員去勢しているため身体に男性器はない。しかし情欲はある。兵児二才の場合なら、もちろん男色はある…
アープレーイユス「黄金の驢馬」の中でも特に「巻の8」は様々な等価性が暴力的に貫徹されることによって入れ換わり入り乱れるシーンで溢れている。男性器切除。眼球破壊。逆さ吊りによる白骨化を免れ救われた女性によって夫殺し首謀者へ向けてなされる両眼…
自称-ハエムスの裏切りによって盗賊団から自由の身になった驢馬のルキウス。連れてこられたのは一軒の民家。ほっとひと息つく間もなく、馬丁の妻から労働を命じられる。 「ところがどうでしょう。あの馬丁に連れられ、町から離れた途端、心待ちにしていた楽…
自称-伝説の山賊ハエムスが登場する。マケドニア皇帝軍との乱闘から上手く逃れた彼はその方法を語る。 「私は胸の前面に波うつ長い襞(ひだ)をつくった華やかな女の着物をまとい、頭に婦人用の毛織りの頭飾りをかぶり、女の子によく見かける例の華奢(きゃ…
南方熊楠の生と性に関する考え方は、例えば一言で「同性愛」といっても、ただ単なる「男色」と「男道」とを区別して考えた点で特筆すべきものがある。 「浄愛(男道)と不浄愛(男色)とは別のものに御座候。小生は浄愛のことを述べたる邦書(小説)はただ一…
世界各地で収集されてきた文化人類学系諸論文が一様に指し示している顕著な傾向。それは何か。近代以後、人間並びに人間社会は定期的にプリミティヴな(原始的な)状態に回帰しなければ翌日を始めることはけっしてできないという生物学的定式である。三回に…
アープレーイユス「黄金の驢馬」のそもそものタイトルは「変身物語」である。ところどころ随分飛ばして特筆すべき箇所に限定し、集中的に論じてきたのだがこの作業もすでに半ばを過ぎた。そろそろ夏休みがあってもいいのでは。 第一、読む側の変身譚が述べら…
ウェヌスがプシューケーに与える第二の試練。 「ほらあすこに森が見えるだろう、ずっと流れてゆくあの河や長い堤に沿ってる森さ。(その中にある水溜りの奥底は)近くの泉に通じてるのだけど、そのあたりには金色の裘(かわごろも)にかがやいた羊たちが見張…
騒ぎを聞いてケレース(デーメーテール=豊穣の神)とユーノー(ヘーラー=ゼウスの妻)とがウェヌス女神のもとに訪ねてくる。ウェヌスはギリシアでいうアプロディーテーのことであり、だからウェヌス(アプロディーテー)とデーメーテールとヘーラーとはそも…
過剰かつ逸脱した美貌ゆえに神格化されてしまった末娘プシューケー。民間の人間へ嫁ぐのは絶望的と感じた両親はアポロンから神託を授かり実行しようと考える。アポロンはいう。 「高い山の嶺(いただき)に、王よ、その少女(おとめ)を置け、死に行く嫁入り…
盗賊に捕らえられて怖がっている少女(プシューケー)に老婆が「面白い話」を聞かせて慰めようと試みる。「囚われの身の少女の不安な精神」=「老婆の面白い話」、という等価性がある。また少女(処女)と老婆(性別超越的存在)との組み合わせはどこの地域…