2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧
編纂された時期やその後の編集方針の違いによって、しばしば或るエピソードの移動が起こる。岩田準一の質問に答えて熊楠はこう述べている。 「『沙石集』一巻八章、熊野詣での女、先達に口説かれ愁えしに、下女、主の女に代わりて先達に密会したる条。さて、…
冬虫夏草(とうちゅうかそう)については前に触れた。だが熊楠はその希少性を訴えるだけでなく、冬虫夏草そのものの持つ変異性から粘菌の常識的理解をくつがえす資料を手に入れていたことがわかる。 「イサリアまた複菌にして、冬虫夏草(日光でしばしばとり…
神社合祀に伴う廃止ではなく玉置神社のように移転ということなら、条件付きで認めてもいいと熊楠はいう。その条件に、「移転して社地をば十分広げ置くならば」、そして「現在の樹木を一本なりとも伐らぬよう」、という二点を上げている。 「玉置神社移転の件…
熊楠は続ける。次の文章の後半は余り熊野に関係がない。関心を覚えるのは前半。 「西の王子は出立の浜と称し、脇屋儀助、熊野湛増、また征韓の役に杉岩越後守等、みなこの出立の浜かを出船せるなり。御存知通り熊野兵は昔よりどちらともつかず、ただ報酬多き…
神社合祀により土地を転売し突如として富裕になった高級官僚らはマスコミ取材に応じて述べた。「どんな植物であろうがなかろうが、詮ずるところは金銭なき社は存置の価値なしと公言」。さらに「合祀大主張紀国造紀俊は、芸妓を妻にし樟(くす)の木などきり…
熊楠の論文というは論文なのかエッセイなのか、よくわからないものが大変多い。次のものも粘菌関連論文のはずが、いつものように本論からずれていくケース。なぜか「平家物語」が、しかも重要な意味を帯びて、出てくる。 「只今は菌類が年中もっとも盛んに出…
当時の和歌山県で熊楠の抵抗はほとんど孤軍奮闘の形を取っていた。国策批判を展開し実践し事実上の阻止に持ち込もうとする場合、一体どのように抵抗すればよいのか。抵抗できるのか。できるとすればどのようにしてか。民衆がその方法を知らないうちに国家は…
日本各地の生態系破壊は神社合祀という国策によって本格化した。それは先史時代から続く東アジア固有の文化という巨大な構造を自己破壊へ導くことになると熊楠は見ていた。 「カラタチバナと申すものはーーーこの田辺より三里ばかりの岡と申す大字の八上(や…
明治政府の国策の一つとして突如全国を襲った神社合祀。そもそも紀州の地にあった貴重な遺産があれよという間もなく失われていく。憤激を抑えきれない熊楠。熊楠が守ろうとしたのは紀州だけではもちろんない。岡山県の飯盛神社について触れている。この地の…
若干だが五体王子(藤白王子、切目王子、稲葉根王子、滝尻王子、発心門王子)について述べなければならない。熊楠が強調している「熊野九十九王子社」と大いに関係がある。 「和歌山県庁も、最初神社をなるべく多く潰して高名せんと心がけ、自治政成績展覧会…
柳田國男は「鬼市(きし)・黙市(もくし)」という古代の商品取引について述べている。 「相州箱根の山男は裸体にして木葉樹皮を衣とす。深山にありて魚を獲るを業とし、市の立つ日を知ってこれを里に持ち来たり米と交易す。人馴れて怪しむことなし。売買の…
男性だと思っていたら突然女性になったとか、逆に、女性だと思っていたらいきなり男性になったというエピソード。資料は古くから数多く残っている。しかし実際に名乗りでる人々は少なかった。生涯ずっと男性か女性かどちらかでしかない人々の側が圧倒的に多…
ルキウスは与えられたイニシエーションのすべてを済ませた。しかし再生の徴(しるし)として真新しい生活様式へと入っていくあたっての儀式はなかなか終わらない。奇妙なほどの規則性を見せている。 「私は神に捧げられたしるしである十二枚の法衣を身にまと…
驢馬のルキウスが「冥界降り」を果たしてすべてのイニシエーションを終えた時、ルキウスはもはや驢馬の形態を取っておらず人間の形態へたちまち変化した。イニシエーションの終わりは「冥界降り」で終結する。しかしイニシエーションとしての「冥界降り」を…
イシス信仰に祈りを捧げる驢馬のルキウス。イシスはルキウスに告げる。これまで驢馬として過酷な困難を与えられてきたにもかかわらずそれらすべての試練を乗り越えてここまで来た。だが試練はようやく終わったと。さらに、ルキウスは同じルキウスでも、ルキ…
これまで驢馬のルキウスの前を様々な神の名が登場しては通り過ぎていった。もうほとんど残っていない。さらに次に登場する神の別名は数えきれない。「プリュギア人は私を神々の母ペシヌンティア」、「アッティカ人は私をケークロピアのミネルウァ」、「キュ…
本当の妻の座をめぐって次々と邪魔者を毒殺していった結果。夫を含めて四人を殺害するに至った。そこで始めて死刑囚になっただけでなく、死刑囚になった限りで始めて、驢馬との一夜を渇望する動物性愛者であり「地位財産ともにすぐれて有名な一人の貴婦人」…
妻は夫殺害のために医師から手に入れた毒薬を精神安定剤と偽って飲ませようとする。夫に安心して飲んでもらうため、同席した医師に先に試飲して見せて欲しいと頼む。医師は同意する。試飲して見せてからすぐさま家に帰り解毒剤を飲めばよいと考えたからだ。…
兄の妻の罠にはまった義妹はまんまと殺害される。大声で訴えかけるがもう遅い。兄の妻は生死を賭けた闘いを闘っているのであり、それが理解できない状態に置かれた義妹は自分の意志とはまったく無関係に殺害されてしまう。義妹には何の落ち度もない。ただ、…
驢馬との性愛を成就した上流階級の一婦人は、驢馬の姿のままのルキウスともう一度夜を過ごしたいと思う。そこでもし粗漏なく寝室の用意が整うように手配してくれるなら、ルキウスの飼育係に前回と同様の「多額の謝礼」を約束する。上流階級といってもこの地…