中古店から五分も歩くと鴨川がひらく。僕は二条大橋東詰から遊歩道へおりる。岸辺に腰をおろし煙草を一服。缶コーヒーを開ける。どうも午前中と同じパターンではある。
そばで五十年輩のオジサンが釣りをしている。いまごろは何があがるのだろう。さっきから見ているけれど、三十分ほどしてもまだ一匹も釣れていない様子。気配すら感じられないが、オジサンは結構こまめに竿を振り上げ振り下ろしている。
紺のジャケットに白い帽子を目深にかぶり、煙草をくわえた立ち姿がさまになる。眺めているぶんにはそれだけでいい。五月の岸の立派な点景。
白い川鳥が行ったり来たりしている。僕が眺めているのは水面。シンプルで華やかだ。僕を横ぎるかぎりではたったの二羽ばかり。数こそ少ない。思うのはこれで十分であるような気がしてくるということ。
川の石段を前にして一羽がすうっと立ち尽くし、上がるしぶきに見入っている。一体何を見ているのだろう。単にほうけているだけ?そんなことはないのだろうが同じ姿勢を取り続ける動物の姿を見るたび彼らがなんだか哲学者のポーズに見えてくるのは不思議だ。たぶん、達観した仙人というのはそんなふうに見える鳥のことを言ったのかもしれない。
おっとオジサン、あぶないじゃないか。竿を振るときはあまり大振りしてはいけない。気をつけてほしい。ーーーそろそろ家へ戻らなくては。家事手伝いが待っている。さよならオジサン。